ベトナム駐在|ベトナム製造業|ベトナムの人材育成


「ベトナムは、仕事観だけでなく、人との向き合い方まで変えてくれました」
そう穏やかに振り返るのは、15年以上ベトナムの製造業に携わり、現在は現場と経営をつなぐパートナーとして、現場改善とエグゼクティブコーチングを通じて日系企業を支援している久保良一さんです。
2011年3月、工場の立て直しという使命を胸にベトナムへ赴任。当時は3年半で日本へ戻る予定でした。
しかし、この国で出会った仲間、お客様、そして家族とのご縁が、久保さんの人生を大きく変えていきます。
久保さんが大切にしているのは、製造業は単に製品をつくる仕事ではなく、「人を育て、幸せをつくる仕事」だという考え方です。
15年間、現場で悩み、失敗し、多くのベトナム人スタッフと向き合う中で学んだことは、現在の現場改善やエグゼクティブコーチングにも受け継がれています。
今回は、そんな久保さんがベトナムで歩んだ15年間の物語を伺いました。
✈️海外で人生を変えたベトナム赴任
赴任当時、リーマンショックの影響が残る中、工場には黒字化という大きな課題がありました。
会社を取り巻く環境も決して順調ではなく、社員の皆さんは笑顔でしたが、仕事に誇りや働きがいを持っているようには見えなかったといいます。
「社員一人ひとりが家族に誇れる会社を増やしたい」
そう強く思い、この考え方は今も変わっていないそうです。
日本では工場長や営業部長を経験してきた久保さんですが、海外では思うようにいかないことばかりでした。
何より大きかったのが、文化の違いです。
🪞ベトナム人スタッフが教えてくれた、本当のリーダーシップ
赴任したばかりの頃は、日本との仕事に対する習慣の違いに戸惑う毎日でした。
雨季になると交通渋滞を理由に遅刻する社員がいる。欠勤しても連絡がないことがある。
日本の製造業では当たり前だったことが、ベトナムでは当たり前ではありませんでした。
「最初は正直、理解することに戸惑っていました」
どうして連絡をしないのだろう。どうして時間を守れないのだろう。
そんな思いを抱えていたと言います。
しかし、ある時、考え方が大きく変わりました。
「個人が悪いのではなく、育ってきた文化や仕組みが違うだけなんだ」
その瞬間、「変わるべきは自分かもしれない」と気付いたそうです。
「それ以来、『日本ではこうだから』と伝えるのではなく、『なぜ必要なのか』を丁寧に説明し、仕組みを整えるようになりました」
品質とは何か。納期を守る意味とは何か。
一緒に考え、納得してもらいながら進める。
時間はかかりましたが、少しずつ現場は変わっていきました。
「日本で学んだことが全て正しいわけではありません。どうすれば『やってみたい』と思ってもらえるかを常に考えています。押し付けるのではなく、一緒に考え、一緒に成長していくことを大切にしています。」
その言葉が、とても印象的でした。

🧹「言葉より、まず自分が動く」─ ベトナムで学んだリーダーのあり方
会社を変えるために久保さんが最初に取り組んだのは、設備投資ではなく「環境整備」でした。
食品工場として安心・安全とは言えない環境を前に、本を教科書代わりに学び、その中で出会ったのが株式会社武蔵野・小山昇社長の「環境整備」という考え方です。
「本を読んで終わりではなく、実際に武蔵野まで見学に行きました」
現場で見て、感じて、学んだことをベトナムへ持ち帰り、そして自社で徹底的に実践しました。
「『環境整備』と出会い見学し、その後、約7年間会社全体で実施し続けたことが、現在の2S活動の原点となりました」
当時はまだベトナム語が話せなかった久保さん。だからこそ、言葉ではなく行動で信頼を築くことを選びました。
「毎日午前と午後には工場を巡回して一人ひとりに頭を下げて挨拶をし、毎朝は玄関の廊下を目地が白くなるまで磨いていました。また有言実行の姿勢を徹底しました。」
やがて、誰にも頼んでいないのに社員が自然とその掃除を引き継いでくれるようになりました。
「リーダーは言葉ではなく、行動で文化をつくる」
その実感こそが、今も久保さんの現場改善の原点になっています。



🌿会社を辞めても続く、人とのつながり
15年間で得た一番の財産は何ですか。
そう尋ねると、久保さんは迷わず「人とのご縁です」と答えてくださいました。
会社を辞めて数年が経った今でも、旧正月(テト)が近づくと、当時一緒に働いていたベトナム人スタッフが毎年欠かさず自分たちで作ったベトナム料理を持って訪ねてきます。
「私はベトナムで、『肩書ではなく、人間性を見てくれる』ということを学び、これは一生の財産です」
会社を辞めれば関係が終わることも少なくありません。
それでも交流が続いているのは、役職ではなく、一人の人として向き合ってきた時間があったからなのでしょう。
👨👩👧ベトナムで出会った、もう一つの大切な家族
15年間のベトナム生活は、仕事だけでなく人生そのものを大きく変えました。その一つが、現在の奥様との出会いです。
「当時はベトナム語がまだ話せなかったので、英語で少しずつ距離を縮めていきました」
当時、奥様には5歳の娘さんがおり、一緒に動物園や遊園地へ出かける時間を重ねるうちに、自然と家族になっていったといいます。
結婚までには13年という長い時間がありました。年齢や健康などさまざまな葛藤がありましたが、最後は「この家族と人生を歩んでいきたい」と決意しました。
「結婚を決めた理由は、特別な出来事ではありません。毎日の小さな思いやりでした。」
外国で暮らす自分を気遣いながら、そっと支えてくれる奥様。そして成長した娘さんの姿は、久保さんにとって何よりの大切な思い出です。
🏡ベトナムで家族を持って気づいた、本当の豊かさ
奥様や娘さんと暮らし始めてから、久保さんはベトナムの文化をより身近に感じるようになりました。
「我が家のボスは、間違いなく妻です(笑)」
そう笑いますが、その言葉の裏には、家族を何より大切にするベトナムへの尊敬があります。
帰宅すると温かい食事が用意され、休日は家族みんなで過ごす。食卓には食べきれないほどの料理が並び、それは「たくさん食べてほしい」という愛情の表れだと知りました。
「最初は日本との違いに驚くことも多かったですね」
しかし、一緒に暮らすうちに、その一つひとつが「家族を思いやる文化」なのだと気づいたといいます。
「違いは間違いではなく、その国で大切にされてきた文化なんです」
ベトナムで家族を持ったことで、相手を理解し、受け入れることの大切さを学びました。その考え方は、家庭だけでなく、現在の現場改善や企業支援にも生きています。

🤝現在の挑戦|現場改善とエグゼクティブコーチングで企業に寄り添う
現在、久保さんは現場と経営をつなぐパートナー、そしてエグゼクティブコーチとして、ベトナムの日系企業を支援しています。
その原点は、現地法人のGeneral Directorとして、工場運営だけでなく経営、人材育成、組織改革まで担った経験にあります。
「理想の会社をつくりたい。その思いを強く持って日々取り組んでいました。」
しかし、経営者には毎日のように判断が求められます。現場、人材、利益、将来への投資――。多くの問いを前に、一人で悩み続ける日々だったといいます。
そんな時、「エグゼクティブコーチ」という存在を知りました。
「経営者にも、思考を整理し、一緒に考えてくれる存在が必要なんだと感じました」
残念ながら当時はその支援を受ける機会はありませんでしたが、自分自身が悩み続けた経験があるからこそ、経営者と一緒に考え、現場と経営を繋ぎ、働く人が誇りを持てるような組織づくりの伴走者でありたいと話します。
🇻🇳 ベトナムで働くということは、自分を成長させること
「ベトナムは、自分自身を成長させてくれる国だと思います。だからこそ、これからは私も人が育つ組織づくりを通して、ベトナムの企業と働く皆さんのお役に立ちたいと思っています。」
久保さんはそう話します。文化や価値観の違いに戸惑い、失敗を重ねながらも、人と向き合い続けた15年間。その経験を通して、日本のやり方を伝えることよりも、相手を理解することの大切さを学びました。
最後に、15年前の自分へ伝えたい言葉を尋ねると、久保さんは笑顔でこう答えてくれました。
「迷わず、その辞令を受けなさい」
その一歩が、多くの人との出会いを生み、現在の現場改善支援活動へとつながっています。久保さんの歩みは、ベトナムで働くことが、仕事だけでなく自分自身を成長させる経験であることを教えてくれました。
プロフィール:
久保 良一
Epoten 代表
現場改善コンサルタント/エグゼクティブコーチ
15年以上にわたりベトナムの日系製造業で現地法人General Directorとして経営・現場改善・人材育成に携わる。現在は、現場改善活動とエグゼクティブコーチングを通じて、現場と経営をつなぎ、社員一人ひとりが誇りを持って働ける組織づくりを支援している。
LinkedInでプロフィールを見る
メール : ryoichikubo1024@gmail.com
電話 : +84 90 3001176
📢 久保良一さんからのお知らせ
今回のインタビューでお話しいただいた「人を育てる現場づくり」や「AI・省人化を成功させる組織づくり」について、久保さんがオンラインセミナーに登壇されます。製造業に携わる方や、海外拠点のマネジメントに関心のある方は、ぜひご参加ください。
日時:2026年8月5日 (水) 15:00〜16:00 (日本時間)

このインタビューは、現地で活躍する日本人のリアルな声を通じて、ベトナムでの暮らしや働き方を身近に感じてもらうことを目的としています。
ベトナムLIFEな人たち
前の記事:vol.3 ベトナムLIFEな人たち 髙橋 光弥さん 〜68歳、ハイフォンで見つけた新しい毎日 ベトナムがくれたやさしい生き方〜
取材日 2026年7月11日
【執筆・撮影】岡部 祐樹|当サイトStep Jobs代表
ホーチミン在住10年以上。
ベトナムで働く日本人やベトナム人に向けた人材コンサルティング会社「Step Jobs」を経営。
現地で見つけたリアルな暮らしや街の魅力をスナップコラムで発信しています。
当ホームページではベトナムでの日本人向けのお仕事の掲載もしております。
ベトナムでのお仕事にご興味がある方は、よろしければこちらもご覧ください。
ベトナムでの求人一覧
ベトナム転職|製造業|海外リーダーシップ